トップチームだけでなくユース、ジュニアユースで構成されるアカデミーチームでもVeoを導入しているマイナビ仙台レディース。運用2年目を迎えた2022年8月16日に、マイナビベガルタ仙台泉パークタウンサッカー場にて取材を行いました。
トップ、ユースの各選手、コーチそれぞれの目線に映るVeoの有用性にはじまり、日本女子サッカーの展望まで貴重なご意見を伺うことができました。取材:清水亮子
★トップチーム市瀬菜々キャプテン
◆WEリーグを盛り上げることが自然と日本代表のレベルアップに繋がる
今シーズンの目標としてタイトルを目指すのはもちろん、レベルが上がっているヨーロッパの女子サッカーに刺激を受け、チーム全体で引っ張られていきたいです。個人では日本代表の座も狙っていく中で、日本のトップレベルが集まるWEリーグで活躍できればと思います。
4年前のワールドカップで世界と戦った時の技術面、ポジショニングは日本が上で、勝てるという自信もありました。今はヨーロッパとの実力の差を感じているというより、別のサッカーをしている感覚、そんな表現の方が近いかもしれません。
日本代表としてU17で優勝した際は日本の技術が際立ち、3位という結果だったU20の時は、スピードに強さ、巧さも加わった世界の進化を目の当たりにしました。日本代表として、現在もなお進化し続けているヨーロッパのチームと対戦し、なでしこジャパンの現在地を知りたいです。
◆挑戦に必要なのは、過去の成功より次のアイデア
強さにも限界はありますし、それに対応する頭脳プレーを身につけるために、Veoを使って自分がボールを蹴る瞬間と相手の位置を確認することで、フォワードとの駆け引きのアイデアを増やしていきたいです。とはいえセンターバックには強さが必要。常にスピードと高さを求められているので、自分の身長を考えると厳しいところもありますが、それをカバーできるくらいの予測能力や技術で、自分らしい強さを磨いていきたいですね。
◆Veoの改善点、今後期待すること
選手目線で言うと、Veoで編集された動画はボールを追う分、全体像が見えないという課題があると最初は思っていました。しかしながら、インタラクティブモードで視聴すると相手のキーパーがボールを持っている時のセンターバック、ディフェンスラインまで確認でき、ポジショニングを含め全体を映し出すことができることを知り、今後はもっと有意義に活用していきたいです。もしインタラクティブモードの動画を共有する際の手間が省けたら、完璧です。
★ユースチーム大曽根由乃キャプテン
◆自分の頭の中と実際のプレーが一致し、俯瞰で見るという意識のきっかけに
ユースチームでは、練習試合や公式戦でVeoを使っています。ハンディカメラとは画質も全然違いますし、高さもあるので自分の視界とは全く違う角度から、自分のプレーを振り返ることができます。個人的によく確認しているのは自分の立ち位置とポジショニングで、良いプレーを見返すことが自信にも繋がりますし、逆に良くなかったプレーは反省材料として受け止め、失敗から学ぶことも多いです。
試合を終えたら次の課題をVeoで見つけるルーティンが自分の中ででき上がっていて、自己分析に役立つだけでなく、チームでミーティングをする際も戦略を映像から全員で理解し、共有できるのはとても大きいと思います。
自分の持ち味はボールのキープ力とスルーパスで、ボランチというポジションの特性もありますが、俯瞰することの難しさと向き合う日々。Veoの映像を繰り返し見ることで、その意識を自分の中に落とし込んでいきたいですね。
◆サッカーを通じて成長する姿を見せることで恩返しをしていきたい
近い将来、WEリーガーとしてプレーし、ゆくゆくは日本代表で活躍する姿を家族、これまでお世話になった方たちに見せることが目標です。昨年ベガルタ仙台でプロデビューした兄の背中を追いかけ、7歳でサッカーを始めました。それまでひとつのことに夢中になるタイプではありませんでしたが、サッカーだけは大好きで、いちばん続けたいことを選んで現在に至ります。
チームで勝利を目指すこのスポーツでできた仲間、指導者の方々に恵まれ、サッカーを通してたくさんの影響を受けて育ちました。自分も見ている人の心を動かすような、影響を与えられる選手になりたいです。そんな私にとってWEリーグは強豪チームが全国各地から集まり、日本代表選手たちがプレーしている憧れの環境。そこでサッカーをする夢を、現実のものにしたいです。
★トップチーム齋藤有里コーチ
◆人員を割くことなくワンタッチでチーム、個人のプレーを可視化できる
以前他社製品を使用していた際は、撮影するスタッフが最低ひとりは必要でした。スマートフォンにプレビューが映らず、感覚でカメラを操作していたため、クローズアップしたい肝心のプレーを押さえることができず苦心していましたね。ネットや電柱に画角が邪魔されることも少なくありませんでした。
Veoを導入してからは、これまで追い切れなかった逆サイドのプレーも撮影することができますし、映像も見やすく助かっています。選手がこれまで自分の視点からでしか見えなかったピッチの景色も、高さのあるVeoの画角のおかげで客観的にプレーを分析でき、彼女たちのモチベーションにも繋がっていると感じます。
◆導入2年目を迎えたVeoを、今後どのように活用していきたいか
トレーニングマッチの映像を撮影後、その映像を抜き出しミーティング時に使用しています。これまでは午前中の試合をその日の夜に、夕方の試合は次の日にしか共有することができず、タイムラグが発生してしまう懸念点がありましたが、Wi-Fi環境下でVeoとタブレット等を同期することで撮影をしながらアップロードができ、ライブ配信も可能。相手チームのスカウティングにも効果的と現場によりフィットする形があると知り、今後も上位進出、優勝争いに絡んでいけるようチーム作りに役立てていきたいですね。
★ユース 有町紗央里コーチ
◆勝利に向け必要なチームワークを引き出すために
指示されてサッカーをするよりも自分で判断し、プレーを選択できる選手を育てていきたいです。目まぐるしく変化するピッチの状況、環境下で決断をするために、自分の武器を磨いてほしいと思います。
こちらからの指示に従っているだけでは、一指導者のサッカーを押し付けているだけに過ぎません。選手が選択したプレーがたとえ間違っていたとしても、決断の理由を聞き、そのために必要な準備をこちらが提案できたら、彼女たちも納得して次のチャンスに生かすことができる。自発性を失うことなく挑戦を促し、自分で選択をしていく自信に繋がればと考えています。
◆トップチームや日本代表で活躍できる選手を育てたい
まずは冬の選手権に向けて、今いる選手たちがもっと自信を持ってプレーできるよう、優勝を目指して頑張っていきたいですね。またこのアカデミーから日本女子サッカーの最高峰であるWEリーグへ、そしてなでしこジャパンの一員として、日本を代表する選手を輩出することが目標です。
◆理想と現実のコーチ像。その距離をVeoが縮めてくれる
皆それぞれが必ず光る個性を持っているので、できないこともあるけれど、選手ひとりひとりの強みをアピールポイントに仕上げていくのが自分の役目ですね。そのためには客観的な視点が必要となり、Veoで撮影したデータをチームで共有すると、ボード上で再現、説明するより一目瞭然。選手たちの理解度が深まるだけでなく、自分たちも戦術を伝えやすくなりました。
監督が求めているのは、常にボールを保持しながら前向きに関わる選手を増やし、点を取りにいくサッカーです。8月のエグゼフカップは自分たちの現在地を知り、頂点に立つために改善すべき課題に直面した大会となりました。もしVeoで試合中の前半に起きている事象を、ハーフタイムに選手たちに伝えることができたら──試合中の監督の指示が、後半の流れを一変させたことが実際に何度もあるので、AIの進化がまた新しい可能性を生むのではないかと期待しています。
さらに試合経過を振り返る上で時刻、ゴール時の詳細に加えてパス、ショートパスの平均距離やアタッキングサードへの侵入回数、各選手の走行距離が一気に表示されるシステムがあれば最高ですね。
◆データの取り扱いをめぐる新たな悩み、葛藤も
Veoの活用方法としてはアタッキングサードへの侵入回数をはじめ、どこからどの方向にクロスが入ったのか、定義付けをしながらデータをまとめています。定義自体も曖昧で時間もかかりますが、攻撃の仕掛けを行なっていく場所のデータを蓄積、分析することで、選手個々の力が発揮でき、チームとしてもさまざまな攻撃のパターンを展開していきたいですね。
ただ、ぎりぎりから走り出す無駄な走力によるハードワークと、きちんと準備をしてから走り出すのでは、前者の数値の方が良しとされることも。数値だけで表せないものが確実に存在する中で、データが先行し再現性が生まれていくとどうなるのか、選手へどのように、どこまで伝えていくかコーチ陣で議論する場を増やしています。
その都度自分の思ったことを伝えたいのが本音ではありますが、選手たちにとって指摘はたまに聞こえてくるくらいがちょうど良い。現役時代の自分を重ねながらスタッフ側の気持ちも分かる今の自分に、Veoは必要不可欠な存在です。
◆分析という科学的視点がレベルアップの鍵を握っている
日本女子サッカー全体の課題としては、海外の現代サッカーに比べて遅れを取っているという事実に目を背けることはできません。ヨーロッパを中心に、刻々と変化する状況の中で選手自らが選択、実行しているサッカーが今この瞬間も進化していると感じます。
日本はゾーンでしっかりと守るけれど、それにスピードが追いついていない。ビルドアップできていても選手間の距離が近く、結局パスで剥がせていない状態が続き、ポゼッションで回してはいるものの前には進めない…というプレーが頻発しています。64mの幅をワイドに使ってダイナミックに展開するスピード感やフィジカルに加えて、多様な戦術も持ち合わせている世界と戦うために、今後、分析は最も欠かすことのできない手段となるはずです。
明確に課題が見えることで、選手たちもより求めるところが高くなります。分析的観点からアプローチをすることで、チームとしてはもちろん、ひいてはWEリーグ、日本女子サッカーのレベルアップを望みます。